(前回のブログを読んでない方はまずそちらからどうぞ)
カネなんざありゃあしねえさ。たまたま活きのいいガチョウが手に入ったんでね。お前さんに頼みごとをするってぇのに手ぶらってわけにもいかねぇだろう。
なぁ、必ず返すからよ。この通りだ!頼む!!
待て待て。なに俺だって鬼じゃねぇ。事と次第によっちゃあ貸してやらんこともない。
で?何でまたそんな急にカネが必要になったってんだ?病でも患ったかい。
パン! ぶらざー!よくぞ聞いてくれた!
実はよ。まっこと不思議な話ではあるんだが、ゆんべ家で何時もの様にコーシーブレイクしていると、抱え切れねぇほどの高額な請求書が届いてな。勿論身に覚えなんぞありゃあしねぇ。ただ請求されたもんは返すのが江戸っ子の心意気ってぇもんだ。それでこうしてお前さんに助けを求めにやってきたってぇ寸法さぁ。
「寸法さぁ(^。^)」じゃないよ全く。相変わらず馬鹿なやつだねえ。
そいつは今流行りの『架空請求詐欺』ってやつだ。買ってもいねえもんにカネを払う義理があるかってんだ。
おめえさんみてぇな馬鹿な野郎どもが雁首揃って引っかかってるらしいじゃねえか。
でもよお。
デモも打ち壊しもありゃしないよ。
よし、ここはひとつその請求書とやらを見せてもらおうじゃぁねえか。
ほら、何もたもたしてるんだい。とっとと食っちまいな。
なんてんで、矢継ぎ早に三大珍味をかっこんで与太郎のボロ屋に向かった二人でしたが、そこで甚五郎が目にしたのは今まで目にしたことも口にしたこともないような代物ばかり。
な、なんでえこれは。
イタリア最高級ブランド家具として知られる“シリック”のショウケースに、ベンガルワシミミズク、59年ギブソンレスポール、ヘフナーバイオリンベース、MacBookAir、果てはラブドオルなんてものまであるじゃねえか。
へへへ、いいだろう。もらった。
もらっただ?この遊戯王レアカード『デス・ヴォルストガルフ』(約15万円)も?
へへ、もらっ。
じゃあこっちのディオールオム・ストラップレザーブーツは?
へ、もら。
馬鹿言えぃ。どれもこれもウン十万は下らない代物ばかりじゃねえか。
何処の世界にこんなバカ高えもんをお前さんにくれるモノ好きがいるっていうんだい。
不況だ不況だって言うけど、だいぶ回復してきたみてえでよ。
町を歩けば「いらんかね」「いらんかね」、てんでタダで商品をばら撒いていやがるからな、ぜぇんぶもらってけえってやったんでぇ。
で、夢見心地でけえってみたらこの『架空請求』の束ってわけよ。
天国から地獄ってえのはまさにこのことだな。
当然カネを貸してもらえるわけも無く、絶句したまま帰る甚五郎を尻目に与太郎が吐き捨てて曰く、
つめてえ野郎だ、あいつにゃ心ってもんが無いに違えねえ。
心が無い、心が無い、無い心、無心・・・
無心長屋という一席でぇございやした。おあとがよろしいようで。
‥無茶ぶりすぎます、先輩。
ヤマダ